森との上手な付き合い方、そして愛し方
TEDxHamamatsu 2015のスピーカー、前田剛志さんが TED の運営するブログ TEDx Innovation で紹介されました。
その記事を TED に許可を得て日本語訳し、掲載しています。
How to manage (and love) a forest / Text by Hailey Reissman
森を守るためには、木を伐(き)らなければならないことがあります。
そう熱く語るのは、天竜のきこり、前田剛志さん。木を伐ることが彼の仕事です。
天竜美林ではほとんど毎日、前田さんの姿を見つけることができます。ここは明治時代に実業家・金原明善よって水害を防ぐため植林された、スギやヒノキの人工林。「森で昼食を食べた後に寝転ぶと 、頭の上に陽に透けたカエデの葉がサラサラっと揺れているんです。この仕事を選んで、本当に良かった。林業は、素晴らしい仕事だ。」TEDxHamamatsuで、前田さんは語ってくれました。
「木を伐らなくては、森は荒れて、山が崩れてしまう。」
林業はビジネスとしての問題を抱え、また、その資源の多くが浪費されています。「運び出してもコストの合わない木が、山の中に伐られては捨てられているんです。」と前田さんは語りました。「守るためには木の命を捨てなければいけない。自分には、それをどうしても当たり前の考えにすることはできませんでした。」
多くの木が捨てられているという現実は、それを当たり前だと思っている一部の人間しか知らない、ということに前田さんは気づきます。そして彼は、それを受け入れることができませんでした。
「この現実を大勢の街の方たちに伝えることができたら、何かが変わるかもしれない。そして、僕は決意しました。山を降りて街へ行こう。森の中で自分たちきこりが何をしているのか、街の人たちに伝えよう。森の課題も現状も、そしてもちろん素晴らしいところも。“顔の見えるきこり”になろう。」
前田さんは山を降り、子どもたちへの木工体験や小中学校で森に関する出前講座を始めました。また、枝打ちや間伐、木の苗を植えて下草を刈るといった作業の様子を見せるため、彼の仕事場である森へ街の人たちを招きました。
前田さんは「しっかりと手入れされた森では、光が地面に届くことで下草が生え、差し込む光の陰影がとても美しい世界になります。きこりのことを光のコーディネーターと呼んだりするのは、そんなところにも理由があります。」と、創造都市・浜松の中で述べています。
前田さんはKicoroの森(heart of the forest)を立ち上げ、天竜美林に人々を招き、森林保全の一部始終や伐られた木が故郷を離れてどのような旅をするのか、といったことを伝えています。
日本の行政では木に関する子どもたちへの教育事業(木育)を立ち上げ、さらに木育キャラバンという移動型おもちゃ美術館の取り組みを進めています。この事業では、日本の子どもたちが若いうちに森とのつながりを持ち、“日本の人工林における、木材の循環、栽植、丸太や材木の利用”について理解を深めることを目指しています。
廃材をできるだけ減らそうという活動の一環として、やぶに群生する常緑樹(クロモジ)の葉をブレンドしたお茶を開発しました。
前田さんは、この木は「山の人にとっては必要のないもの、しかし街の人にとっては良い香りのする驚くべきもの」だと言います。
「作業の時に邪魔になる刈って捨てられてしまう小さな木の枝があります。街の人たちを山に案内すると、その枝を折って香りを嗅いでもらうんです。すると、ほとんどの人が『いい香り!』そう言って驚いてくれます。試行錯誤の末、その木をお茶にすることができました。今そのお茶は、浜松の街中のカフェで飲むことができます。」
このお茶は、街の人たちが日本の森林について考えるためのちょっとしたきっかけ入口だと前田さんは言い、そしてこう語ります。「いつか実際に森へ足を運んでもらう。そして森を身近なものとして感じてもらうことが、これから街の人たちが森のことを考えるうえで、大切な一歩じゃないかと思っています。街の人たちが求めるものはスギやヒノキだけじゃない。他の植物も環境も、そして森そのものも、街の人たちは求めている。たくさんの人を山に案内するなかで、そんなことに気が付きました。」
また前田さんは、モノづくりや木材加工のワークショップ、木こり体験ができる「フジモックフェス」で、案内役のきこりとしても活動しています。イベント参加者は前田さんのようなプロの木こりたちと一緒に富士山麓へ赴き、実際に木の伐採を学びます。そしてファブラボ鎌倉でその木材を使い、“森からヒントを得た技術創作”をするのです。
※1 訳注:インターネットや3Dプリンターなどを用い、個人でさまざまなモノを作ろうとする社会の動き
フジモックフェスでは驚くような“モノ”が生み出されており、時計から、お皿、スピーカー、ワイヤレス充電器といったものにまで及びます。イベント参加者の中には木材に魅了され、木製品をつくるために仕事を辞めてしまった人も。「彼は笑いながら(私に)こう言います。『木に人生狂わされた!』って。(笑)」前田さんは、彼の気持ちが分かると語りました。
デザイナーの Kotaro Abe さんは、天竜の製材所で廃材から椅子を作る活動「天竜プロジェクト」を生み出すために、前田さんとその仲間たちからヒントを得ました。
「天竜プロジェクトは、木材の新しい流通システムを見出すことを目指している。(このプロジェクトの場合、林業家とクリエイター間の流通だ。)」とAbeさんは述べています。「最近では、木材の活用が他の資源に取って代わられ、それによって生態系破壊が引き起こされている。」
前田さんは語ります。「林業は、森というバトンを世代を超えて引き継ぐリレーです。祖父が植えて父が育てた木を、自分が伐る。自分が造る森も、そうして次の世代に受け継がれていって欲しい。」
さらに詳しく知りたい方は、ぜひ前田剛志さんのトークをご覧ください。